
私が治療院を開業したのは平成4年のことです。
当時、日本の都市圏では「クイックマッサージ」という新しい業態が急速に拡大していました。アメリカから輸入されたスタイルであり、短時間・低料金を打ち出してメディアでも大きく取り上げられていたのを覚えています。私自身は当初、やや距離を置いて眺めていましたが、その勢いは想像以上で、業界内でも注目を集めました。
しかし現在では、その多くが姿を消し、かわって整骨院が自費施術としてかつてのクイックマッサージに類似したサービスを提供している印象があります。流行と淘汰のサイクルの速さを実感するところです。
私が学んだ当時のあん摩・指圧の実技は、布団やマットを敷いて行う形式が主流でした。ベッドを用いない分、施術者が体圧をコントロールしやすく、術者・受療者双方にとっても安定した接触が得られるという利点があります。そのため、私にとっては今なお好ましいスタイルです。もっとも、新宿に移転してからは治療環境の整備の必要もあり、ベッド施術へと移行しましたが、馴染むまでには一定の時間を要しました。
「揉み療治」という言葉は、私が開業当初から用いてきた表現です。今日ではあまり耳にしなくなりましたが、古来の日本的な響きを持ちつつ、手技の本質を端的に表す言葉でもあります。温故知新の観点からも、今後再び注目され、普及の一助となればと願っています。