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店の前の隠れたところに、キャットフードかドッグフードのようなものが置かれていました。
ただの餌なのか、それとも毒なのか。見ただけでは判断できないので少し気味が悪い。
思い出すのは、以前住んでいた神奈川でのこと。あの界隈には「猫ネットワーク」が確立されていて、怪しい餌を回収して歩くオバサン集団がいました。餌に睡眠薬を混ぜて猫を眠らせ、業者が回収するという話があったからです。昼間は白衣を着て保健所職員を装い、猫を捕まえる者がいたという噂までありました。そんな情報はすぐに電話で回り、夜には怪しい餌を片付けて、新しい餌と取り替える人たちもいました。
業者は猫の集会場をよく把握しているようで、捕まった猫は関西へ送られ、三味線の皮にされる……そんな物騒な噂も飛び交っていたものです。
さて今日は、市ヶ谷・曙橋界隈もぽかぽか陽気。
この辺りの特徴のひとつは、なんといっても「猫町」です。路地に入れば猫、猫、猫。
萩原朔太郎の小説『猫町』を思い出します。
瞬間。万象が急に静止し、底の知れない沈黙が横たわった。
だが次の瞬間には、何人にも想像されない奇怪な異変が現れた。
見れば町の街路に充満して、猫の大集団がうようよと歩いているのだ。
猫、猫、猫、猫、猫。どこを見ても猫ばかりだ。
まさに、ここ市ヶ谷荒木町もそんな風情です。
道路に寝ころんだり、塀の上を通り道にしたり、空き地を集会場にしたり。
猫たちの小さな社会が、静かに、のどかに息づいています。