
都営新宿線・曙橋駅を降りると、すぐそばに防衛省や中央大学市ヶ谷キャンパス、成女学園(小泉八雲旧居跡)、成城高校、東洋美術学校、東京女子医科大学などが並びます。公共施設や学び舎が点在するこの一帯は、日々の喧騒のなかにも知の香りが漂っています。
荒木町と花街の記憶
外苑東通りを四谷三丁目方面へ歩けば、道すがら四谷消防署や新宿歴史博物館に出会います。博物館の裏手には、かつての花街・荒木町。今も石畳の小路に小さな店が並び、夜になると当時の面影を残す独特の風情を感じられます。曙橋から四谷までは徒歩15〜20分ほど。かつてフジテレビの本社があり、にぎやかだった時代もありました。
寺町から信濃町へ
さらに足を延ばすと、四谷は「寺町」と呼ばれるほど寺院の多い地域です。新宿通りを越えて信濃町へ進めば、慶應義塾大学病院や創価学会本部といった現代的なランドマークに出会います。
文学と剣豪の舞台
曙橋から若葉、番町、麹町方面へと歩けば、江戸の物語の世界へと誘われます。伊賀忍者の逸話、池波正太郎『鬼平犯科帳』や『剣客商売』の舞台、そして怪談「番町皿屋敷」の舞台もこの界隈に広がります。
また近隣には、市谷甲良屋敷跡があります。ここは新撰組局長・近藤勇が天然理心流の道場「試衛館」を開いていた場所で、やがて浪士組に加わり京へ上るまでの拠点でした。
尾張徳川家の上屋敷跡
現在の防衛省は、かつて尾張藩六十一万九千石の上屋敷跡にあたります。明治以降は旧大本営が置かれ、近代日本の歩みを象徴する場ともなりました。徳川御三家筆頭・尾張藩の屋敷跡に、現代の国防を担う施設が建っていることは、時代の移ろいを感じさせます。
曙橋を起点に、わずか数十分歩くだけで江戸から明治、そして現代までの歴史を辿れるのが、この地域の大きな魅力です。