
「筋肉ではなく皮膚を読め!」
この一言に尽きます。
小児鍼の世界では「身体の声を聞く」とよく言われますが、それを実際に言語化することは難しい。なぜなら、センサーとなる“手”を育て、感覚を分類できるようになるまでには、長い時間と経験が必要だからです。そして、よき師に出会わなければ、その境地にすら気づけないでしょう。
谷岡賢徳先生のこのご著書は、その難題に真正面から取り組み、言葉にしてくださった貴重な記録です。行間から先生の苦心の跡がにじみ出ており、読み進めるほどに感動します。
「小児鍼は簡単」という誤解
学生時代、何度も「小児鍼は簡単で誰でもできる」と耳にしました。
しかし、現実には小児鍼を実際に行える先生はほとんどいません。私自身、幸運にも周囲に2人ほど小児鍼の出来る先生がいましたが、それは非常に稀なケースでした。
多くの鍼灸師の方に「子どもに鍼はちょっと……」と言われた経験もあります。
理由は単純で、小児鍼の実際を見たことがないからです。私は何度か「小児鍼は刺さないので子どもでも大丈夫ですよ」と説明したことがあります。
しかし実際には、「簡単」な技術ほど難しいものはありません。
子どもはよく動き、言葉は通じない。少しでも痛ければすぐに泣いてしまう。やり方が少し違うだけで効果は出ない。その理解に至るまでには長い時間がかかります。多くの人が、その時間を待てないのです。
専門家にとっての宝
谷岡先生の本は専門家向けではありますが、小児の治療に関わる人にとっては、涙が出るほどありがたいヒントに満ちています。
「どこのツボが効く」といった即効性のノウハウ本ではありません。けれど、悩んでいるときにめくれば必ず霊感を与えてくれる――そんな一冊です。
これほど深い内容の本が、小児鍼の分野で再び出版されることはないでしょう。
断言できます。