
先日、レイラ・ララミさんの小説『The Moor’s Account』を手に取りました。
舞台は16世紀初頭、いわゆる「大航海時代」のアメリカ大陸。主人公はモロッコ出身の黒人ムスリム、ムスタファ・アル=ザマリ。彼は本来、公証人を目指して学んでいた人物ですが、破産の末に自らを奴隷として売り渡し、スペインの探検隊に同行することになります。
モロッコの学問と公証人
驚いたのは、当時のモロッコにすでに公証人を養成する学問や大学が存在していたことです。イスラム世界の知的基盤は、ヨーロッパに劣らずむしろ先進的な部分も多く、法学や記録の文化が成熟していました。ムスタファはその知識を持ちながらも、数奇な運命に導かれて奴隷の身分に転落します。
神の名のもとに
探検隊はアメリカ大陸に上陸しますが、そこで展開されるのは「布教と征服」の二本立てでした。神父は「神の御名のもとに」と宣言し、従わぬ人々は殺され、あるいは動物のように奴隷とされていきます。歴史教科書の中では「発見」や「新世界」と美化されがちな大航海時代の影の部分が、この小説では生々しく描かれています。
日本と重なる視点
この背景は、昨年Disney+で放映された真田広之主演の『SHŌGUN 将軍』にも重なります。布教を口実に侵略を進めるスペインやポルトガルの思惑。それを察知した徳川家康が、漂着した三浦按針(ウィリアム・アダムス)の助言を得て警戒を強めたことがよく理解できます。もし安易に布教を許していたなら、日本もまた植民地の道を歩んでいたかもしれません。
ララミさんの小説は、史実の史料に埋もれた「黒人奴隷の視点」をフィクションとして蘇らせています。
ネイティブ・アメリカンの人と結婚するのですが、最終的には自分の知恵で奴隷身分でなくなりアメリカ大陸に溶けていくような形で終わります。
キリスト教の侵略の歴史をもう少し学校教育で教えて良さそうなものですがキリスト教の国アメリカの負けたのですからそれは無理か。
「正しい語り手の手にかかれば根拠のない噂話でも、正当な歴史に変わるのと同じように試したことのない治療法でも、正しい呪い師が用いれば効くことがある。」