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鍼灸学校1年生の頃、渋谷にある鍼灸院の先生のお手伝いをさせていただいたことがありました。
院名はのんびりした響きだったので、こちらものんびり学べるのかと思いきや──ドアの外まで人が並ぶほどの大盛況。圧倒されながらも、あっさり採用されました。
日曜日は運転手として先生に同行し、病院への送迎なども担当しました。先生は当時70代。武道着姿で施術される独特の先生でした。
ある日、買い物のお供で渋谷の東急デパートへ。エレベーターに乗った時、チャラついた若い男女4人組がいて、笑いながら先生にぶつかったのです。すると先生は「コリャ無礼者!」と背中をドツイてしまいました。
「クソジジイ何すんだ!」と若者が言い返すと、先生は「おっ、やるのか」とすぐさま上がった階で二人の若者を階段へ連れて行く気迫。ポケットに手を突っ込み、不良のように歩く後ろ姿は、戦後を生き抜いてきた気配そのもの。
女の子たちが必死に止めても止まらず、このまま喧嘩沙汰になったら厄介だと私は慌てて「先生、ここは私に任せてください」と間に入りました。先生は「悪かったな」とふんぞり返って謝ると、次に見た時には4人組は影も形もなくなっていました。
その後、お茶をしながら先生は「なぜ止めたんだ、あんな連中に負けるわけがないだろう」とご立腹。帰って先輩に報告すると、「あの先生なら放っておけばいいんだ」と笑われました。以前も高速道路で抜かれた車を追い詰めて殴ったことがあるらしく……。
70代になってなお現役で喧嘩できるその姿には、驚きと同時に妙な感動を覚えました。さすが予科練出身。まさに“ぶっ飛んだ鍼灸師”の先生でした。