えらそうなことは言えませんが、最近話題になっている「食」に関して、どうしてもひとこと言いたくなります。
確かに偽装は論外です。けれども「偽装をしていない」と胸を張って言える食品関係者、あるいは「扱っていない」と断言できるところが、いったいどれほどあるのでしょうか。
それ以上に欠けているのは、食に対する感謝の気持ちではないでしょうか。命をいただき、命をつないでいく──本来はとても尊い行為のはずが、いつの間にかいびつになっている気がしてなりません。
牛が但馬であろうと鹿児島であろうと、生産者が丹精込めて育てた「命」であることに変わりはありません。産地偽装の根っこには、この感覚の欠落があるのではないでしょうか。
私が関わったレストランや食堂では、値段が安かろうと高かろうと「いかに美味しく提供するか」が大事でした。安く仕入れて高く売ること自体は商売の基本です。しかし、偽装までしてやることなのかと、どうしても思ってしまいます。ブランドを名乗るなら、もっと誇りを持って仕事をしてほしいものです。
高級料亭の職人さんは、食材を最高に美味しく提供するために努力を惜しまないはずです。その姿を知るからこそ、今回の経営責任者たちの言葉や行為には「何か大切なことを忘れていませんか」と問いかけたくなります。
一方で、ミシュラン三つ星のレストランが評判になっているのも耳にしました。職人さんたちの姿を見ていると、「この仕事が好きでたまらない」という情熱が伝わってきます。最高に鍛え整えた技術を尽くし、人に喜んでもらう──それは職人にとって至福の瞬間でしょう。そういう空間をお客と共有できることもまた、素晴らしいことだと思います。