身体の地図は、書き換えられている

学び

ひとりで院を回していると、説明用の教材はいつも後回しになります。古典のホムンクルスは知っている。でも、2023年のGordonらの研究で一次運動野の地図がどう見直されたかまで、口頭だけで伝えるのは難しい。紙の図を出すと話が止まり、スライドを開くと場が少し堅くなる。そこで私は、約3分のモーショングラフィックを作ってみることにしました。タイトルは「身体の地図は、書き換えられている」です。

この記事は、院の集客用ではありません。臨床家や学習者向けのデジタル教材を、自分でどう作ったかの記録です。

最初にほしかったのは、宣伝ではなく「地図の説明」だった

きっかけは単純です。施術の話をするとき、「脳の中の身体地図」が話題に出ることがある。ところが、私が頭の中で見ている絵と、相手が教科書で覚えている絵が、すでにずれ始めている。古典の連続地図だけだと、いま起きている議論が伝わらない。だから、短い映像で「何がどう書き換わったか」を見せたかった。売り込みではなく、共有のための映像です。

台本はChatGPTで書き、制作はGrok Botに引き継いだ

最初の台本はChatGPTに相談しながら書きました。6シーンの骨組み、注意書き、出典の置き方まで、そこで一度整えました。ただ、そこから先の作業——シーンごとの動き、日本語ナレーションの読み上げ、字幕の焼き込み、BGMの重ね——は、別のAIに渡した方が進みやすかった。

私はいまCursorのなかのGrok Botを使っています。ChatGPT側で固めた台本と注意事項をそのまま引き継ぎメモにして渡し、「この台本でモーショングラフィックを仕上げて」と頼みました。長い相談を途中で切らずに、役割を分けて渡す。台本づくりと映像づくりを、別の道具に振る。全部をひとつのAIに抱えさせなくてよかった、というのが今回の実感です。

ペンフィールドの地図は、正確な地図というより記憶の助けだった

映像の冒頭では、手や唇が大きく描かれたあのホムンクルスを出します。約80年、教育現場で語られてきた図です。ただし、ペンフィールド自身も、これは厳密な地図というより記憶の助けだと捉えていた、という趣旨で話を進めました。模式図であることを先に言う。ここを飛ばすと、「昔の図は間違いだった」という単純な物語になってしまう。作ってみて、いちばん大事な前置きだと感じました。

書き換えが提案されたのはS1ではなく、M1の側だった

中心溝の前が一次運動野(M1)、後ろが一次体性感覚野(S1)。触れて感じる情報が主に扱うのはS1、身体を動かす命令が集まるのがM1です。2023年のGordonらの報告で大きく見直されたのは、運動野側の地図です。感覚野のホムンクルスをまるごと置き換えた、という話ではありません。この一点を字幕でもはっきり残しました。曖昧にすると、現場の誤解を増やします。

SCANは「部分を切り分ける」と「全身をまとめる」が交互に並ぶ話だった

精密な機能的MRIで見ると、足・手・口の領域のあいだに、別の性質を持つ領域が交互に並んでいました。互いに強くつながり、全身の行動計画や姿勢、生理の調整とも結びつく。研究者たちはこれを体性認知行動ネットワーク(SCAN)と呼びました。ざっくり言えば、手足を精密に切り分ける回路と、全身をまとめて動かす回路が、同じ運動野のなかで編み合わさっている、という見方です。integrate–isolate、という言い方もありますが、映像ではできるだけ平たい言葉に落としました。

6シーン・約3分。ナレーションと字幕を焼き込んだ

完成尺は約188秒、だいたい3分です。構成は6シーン。日本語ナレーションはKeitaの音声合成、字幕は映像に焼き込み、後ろに薄いBGMを敷きました。音だけで追える人も、字幕だけで追える人もいる。院の休憩時間や勉強会の冒頭に流せる長さを意識しました。きれいに作り込むより、「途中で止めずに見終わる」ことを優先しています。

SCANの発見が、鍼や指圧の効果を証明したわけではない

ここは何度でも書きます。SCANの研究は、主としてM1の身体地図の再検討です。鍼灸や指圧の治療効果を証明した研究ではありません。施術の手が皮膚に触れ、圧や温度、わずかな抵抗を読む——その行為は、私にとって身体を知ろうとする行為でもあります。けれど、それは臨床の立場からの見方であって、論文の結論を超えて語るつもりはありません。地図の話と、効果の話を混ぜない。制作中いちばん意識した線引きです。

全部を自分で作る必要はない。無理に映像化しなくていい

モーショングラフィックは、便利ですが必須ではありません。紙の図一枚で十分な場面も多い。私は「口頭だとずれやすい一点」だけを映像にしました。台本をChatGPTで書き、制作をGrok Botに引き継いだのも、全部を一人で抱え込まないためです。

デジタル治療室は、私にとって完成品の置き場というより、身体の見方を何度でも作り直す場所です。今回の映像も、その一枚です。興味がなければ、無理に同じことをしなくて大丈夫です。自分の説明で足りているなら、それで十分だと思います。
でも1回ではうまくいかないもんですね。この動画も4〜5回作ってます。
ナレーションも数ヶ月前までのこと考えると全然いいんですけれども、やっぱりハリのことをシンと呼んだり、ここがなかなか悩ましいとこですね。

参考

  • Gordon EM, et al. A somato-cognitive action network alternates with effector regions in motor cortex. Nature 617, 351–359 (2023). DOI: 10.1038/s41586-023-05964-2

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