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夏樹静子著『椅子がこわい ― 私の腰痛放浪記』を読んだ。
心身症が腰痛を引き起こすという考えが、まだ一般には知られていなかった時代に発表された本である。
ページをめくると、夏樹さんが多くの治療者に出会い、さまざまな治療を受けていたことが分かる。なかでも噂に聞いていた名人・及川先生の名前が出てきた。及川先生は、治療の後に患者の体の変化や経過を伝え、その予測がよく的中したという。
港区で仕事をしていた頃、患者さんから「及川先生はすごい」と耳にしたことが何度かあった。実際、夏樹さんにも二度の施術の後、「私には治せない」と告げたそうだ。限界を見極め、率直に伝えることができるのも名人の証なのだろう。
読み進めながら、改めて人の心の不思議さを思う。夏樹さんの心は悲鳴を上げ、身体にその苦しみを訴えていた。
おそらく彼女は、納得のいく答えを得ない限り落ち着かない性分だったのだろう。
心というものは、自分ではなかなか見えにくい。だからこそ身体が代わりに語り出すのかもしれない。